体験学習が子どもの行動に変化を与える2つの理由──妙高の農家民泊と地域交流

投稿:2022年3月2日

子どもたちの教育に熱心な先生方ほど、子どもたちに「教室では得られない体験学習をさせてあげたい」と思っていらっしゃるのではないでしょうか。教育には、教室で知識を学ぶ方法もあります。一方で、実体験から学ぶ経験学習も非常に大切です。

しかし、教育に熱心な先生方であればあるほど、日常の忙しさに、そういった企画が難しいとお感じではありませんか? 体験学習に対する想いはあっても、縁もゆかりもない地域の情報を調べ、本当に効果があるのかを検証し、そのための下調べをして、自分で手配まで行うのは、容易なことではありません。

妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会では、忙しい先生方に変わって、教育体験旅行や体験学習ツアーの企画、地域側のコーディネートを行っています。小・中・高校、大学など、生徒・学生のみなさんを中心に、農業や野外活動など妙高市内における「地域ならでは」の体験や、農泊・民泊といった形での地域交流を通じて、子どもたちに学びの機会を提供しています。

2022年2月19日(土)~20日(日)にかけて、雪国体験・農家民宿ツアーを開催しました。今回参加いただいたのは、小・中学生の計4名です。

この記事は、そのレポートです。

妙高の体験学習で子どもたちが自発的に変化する2つの理由

まず、妙高の体験が、子どもたちの教育にどんなメリットがあるのか、なぜ、変化するのかについてお話します。

妙高市は、自然がとても豊かな地域です。ご来訪いただくと、子どもたちは教室では学ぶことができない、非日常体験をすることになります。そして、深い気づきや学びを得ることになります。

なぜ、深い気づきや学びを得ることができるのか? その理由は、大きく分けて2つあります。

1つは、自然や教育に精通した「専門家の関わり」です。妙高市には、体験学習を通じて子どもたちの自立を促進する教育施設「国立妙高青少年自然の家」をはじめ、学校やさまざまな教育団体の受け入れ経験豊富で、専門的な知識を有した人や団体が数多く存在しています。森林や火山など、妙高の自然環境を生かした体験学習プログラムは、これらの専門家と協力しながらつくっています。

もう1つは、「地域住民との交流」です。妙高市は、多い時には3メートルほどの雪が積もる豪雪地帯です。妙高山がもたらす雪の恵みは、スキーをはじめとした観光資源です。一方、雪国のくらしや農業は、必ずしも快適なことばかりではありません。ときには、厳しい環境にさらされることもあります。その中で生活するためには、地域住民同士の協力やさまざまな知恵が欠かせません。農家民泊によって、地域住民と同じ時間を過ごす。そして、話を聞く。そこから、子どもたちはさまざまな気づきや発見を得ることができます。また、集団で宿泊することは、人間関係づくりにもなります。

このように、「専門家の関わり」と「地域住民との交流」を通じて、子どもたちは教室では得ることのできない「深い学び」を経験するのです。

体験学習により、子どもたちに起こる自発的な行動の変化

妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会では、教育体験旅行をはじめ、これまで1万人以上、多くの学校や子どもたちを受け入れてきました。そして、数日の体験学習でも、初日と最終日では子どもたちの顔つきが変わる姿をたくさん見てきました。

また、学校の先生や親御さんからは、「家では全然話をしなかった子が、話をたくさんするようになった」「いままで、手伝いをしなかった子が、手伝いをするようになった」のように「行動が変化した」という声を伺っています。

なぜ、短期間でも子どもたちの行動が変わるのか。私たちの意見では、次のようなことがその理由ではないかと考えています。

  • 「家族ではない」が「家族のような場」に宿泊するため、「手伝いをしなくてはいけない」「自分のことは自分で」という気持ちが芽生える
  • 家庭から離れることで、今までしてもらっていた「当たり前」が、「当たり前ではなかった」ことに気づく
  • 家族の場合、声に出さなくても「気持ちを汲んでもらえる」が、声を発しないと届かない環境に入ることで、「自分から伝える」ことの大切さを知る
  • 都市部では核家族が主体だが、地方では「お互いに協力する」文化が残っている(協力しないと生活できない)ため、助け合いや思いやりの大切さに気づく
  • 大変なことでも、みんなでやると楽しいことが分かる

そこにあるのは、理屈を言葉で伝える「知識」ではありません。農業や雪国という、豊かさをもたらしながら、厳しくもある環境の中で、近隣住民と助け合い、思いやり、工夫しながら暮らしてきた生活の「知恵」です。やさしさやあたたかさが人柄に滲み出る地域住民との貴重な体験学習によって、子どもたちの心が揺さぶられる姿を、多くの先生方、親御さんが実感されています。

妙高 雪国体験 学習ツアーの工程

今回は、次のような工程でツアーを実施しました。

■1日目
11:30 国立妙高青少年自然の家
11:35 オリエンテーション
12:00 昼食(バイキング)
13:00 雪遊び体験、雪の学習
15:45 農家民宿へ
16:30 農家民宿着。ごあいさつ
16:50 夕食づくり、入浴、受け入れ家庭での懇談
21:00 就寝準備

■2日目
7:00 起床
   受け入れ家庭にて朝食の準備、朝食、布団の片付けなど
9:00 スゲ細工
11:00 農業体験
11:30 昼食
12:00 振り返り
13:00 プログラム終了

ここからは、写真とともに、その模様をご紹介しましょう。

ツアーの模様

1日目 13:00~ 国立妙高青少年自然の家でスノーシュー

雪国ならではのスノーシューを体験するのは、国立妙高青少年自然の家。当日は4メートル近い積雪がありました。
ガイドをしてくださるスタッフさんにご挨拶。
スノーシューは、雪の上を歩くための道具です。深い雪でも足が埋まりません。
さぁ、未知の世界に出発です!
スノーシューでは、まだ誰も足を踏み入れていない新雪の上を歩きます。
「子どもたちが普段体験できない、野外活動・集団活動を通じて、子どもたちが自分でやり遂げる力を育みたいと思っています。」とは、国立妙高青少年自然の家の志賀さん。
普通に歩いているだけでは決して気づくことのない、動物の冬のくらしや植物の生態系といった情報を提供してくださるのは専門家ならでは。ちなみに、子どもたちの視線の先にあるのは「うさぎの巣穴」だそうです。

16:30~ 農家民宿に到着

スノーシューのあとは、宿泊先である農家民宿に向かいます。
今回お世話になるのは、妙高市矢代地区にある農家民宿「みはらし」さん。
宿を営んでいる清水泰男さん、登貴子さんご夫婦です。

16:50~ 夕食(笹ずし)づくり

笹ずしは、春の農作業後やお祝いの時につくる妙高の郷土料理。「笹の上に酢飯をのせて、その上に具材をのせて……」登貴子さんからつくり方を教わります。酢飯は少し押すのがポイントだとか。
みんなで協力しながらつくりました。具材は姫竹(ひめたけ)、サバ、錦糸卵など。自然と、妙高の食文化などの話にもなります。そのほか、登貴子さんが唐揚げやエビの天ぷらなどを揚げてくださいました。
手を合わせて「いただきます!」
「おじさんが子どものころは、農耕に牛をつかっていたんだよね」「60年で世の中は進歩したと思うけれど、昔のほうがみんなで助け合わないといけないという精神が強かったと思うよね。今はそれが薄れたかな」「でも、いまも『隣の家、電気ついているかな』と見守り合ったり、助け合ったり。雪国にはまだ残っているかな」──教科書では知ることのない話が、子どもたちの気づきや学びのきっかけに。
食事のあとは「雪灯篭」を眺めます。きれいです。この後は部屋に戻り、泰男さんから雪国のくらしなどを伺いました。「隣近所、それぞれの雪の様子をお互いに気にしながら生活している」というお話が印象的でした。

2日目 9:00~ スゲ細工

2日目は、朝食後、妙高の伝統工芸「スゲ細工」で「春駒」をつくりました。
登貴子さんがやさしく、ていねいに教えてくれます。
春駒の完成です。精悍な雰囲気です。
春駒づくりのあとは、おやつに郷土料理「ちまき」を食べました。

11:00 農業体験

矢代地区で野菜を生産しているビニールハウスに伺いました。豪雪地域でもビニールハウスで野菜がつくれることを、初めて知りました。
ビニールハウスに入ります。
ビニールハウスでは「オータムポエム」というアスパラ菜を栽培しているそうです。

泰男さんから、冬の野菜づくりについて教わります。「燃料費などを考えると、なかなか難しい」という実際のお話が印象的でした。

となりのビニールハウスでは、地域のおかあさん方が秋に収穫した里芋の出荷作業をしていました。
里芋の洗浄・選別を体験しました。機械の緑色の箱で里芋をきれいにし、赤色の筒状のものが回転して、里芋の大きさごとに分別されます。

参加した子どもたちと関係者の声

今回参加した、中学生の声です。「とにかく、楽しかったです。スノーシューとか、スゲ細工とか、笹ずしとかは、普段、経験できないので」「雪に残っている動物の足跡とか、写真では知っていたけれど、ネットで見たのとは全然違いました」「里芋は、あれだけ手間がかかっていることを初めて知りました。もっと楽にするか、人件費を上げるか。野菜の値段をあげるか。ちゃんと工夫をしないと農家さんが報われないと思いました」「清水さんがとても親切で、場を楽しくしようとする気持ちが伝わってきてうれしかったです。今ある価値をこれからも受けついていかないといけないと思いました」
今回参加した小学生高学年の女の子の声です。「雪が多くてすごいなと思いました。スノーシューは重そうだけど、結構軽くてびっくりしました。誰も踏んでいない雪の上を歩くと雪が結構沈むので、思っていたより歩くのが大変でした」「スゲ細工は、結んだりするのは難しいけれど完成するとうれしかった」「里芋は、売っているのは見たことがあるけれど、選別とか、手間がかかっているなと思いました。これから里芋を食べるときは『この1個も、ちゃんと手間がかかってつくられているんだな』と思うと思います」
今回、ご対応いただいた清水さんは、次のようにおっしゃっています。「滞在中は食事を一緒につくったり、季節ごとの農業体験をしたりしています。いろんな体験を作ってやろうとしなくても、子どもたちが自分で見つけて楽しんでいる。それが価値だと思っています。来た時と分かれる時では表情が全然違うんですよ。別れを惜しんで涙を流す子どももいます。また、子どもの年代に合わせて、農業や豪雪地域のこと、高齢化などの問題について、理解できるように話をしています。さまざま課題を考える機会になっているようです」

おわりに

今回の農家民泊ツアーでは、子どもたちが「妙高ならでは」「地域ならでは」の体験を通じて、教室では学ぶことができない学びについて体験していただきました。

子どもたちが、「知識」ではなく、地域内での体験や、地域の方々との交流を通じて得た「知恵」を、これからの生活に生かしていただけたらいいなと思っています。子どもたちの成長を実感できる場をご一緒することが、私たちのよろこびです。